日本の戦後の賃金・給与の推移(名目・実質賃金)

1.利用するデータ

ここでは日本の戦後の賃金・給与の推移について見ていく。

できるだけ長期的な賃金のデータを見たい場合、利用できるデータの1つとして厚生労働省の「毎月勤労統計調査」がある。

「毎月勤労統計調査」の「長期時系列表」における「実数・指数累積データ」では、事業規模30人以上の製造業などの賃金実数について1960年からデータが入手できる。

調査産業全体のデータについては1970年からのデータとなる。

「毎月勤労統計調査」は第二次大戦期から開始されており、もっと長期的なデータも利用可能と思われる。

同調査に基づいたもっと長期のデータについては、独立行政法人労働政策研究・研修機構のウェブサイトにおける「早わかり グラフでみる長期労働統計」において入手することができ、それが便利である。

このデータでは1947年からのデータが掲載されている。

戦後の1947年からの長期的な賃金については、このデータを利用する。

ただし、このデータの1つの問題として、これは「常用労働者」の賃金データである点がある。

「常用労働者」とは、短時間労働者である「パートタイム労働者」と、それ以外の「一般労働者」の両方を含むものである。

したがって、賃金の低いパートタイム労働者が含まれるため、パートタイム労働者の比率の変動が賃金水準全体に影響を与えることになる。つまり、パートターム労働者が増えると全体の平均的な賃金水準も低下しているように見えることになる。

事実、「毎月勤労統計調査」によれば、パートタイム労働者の数は増加してきている。

そのため、できればパートタイム労働者を除いたデータも見たい。

そこで、パートタイムを除いた一般労働者だけの賃金データの推移を厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」から見る。

「賃金構造基本統計調査」の長期的なデータについては、総務省統計局の「日本の長期統計系列」から入手することができる。

総務省統計局の「日本の長期統計系列」では1958年からのデータが入手できるが、「日本の長期統計系列」は既に更新を停止しており、賃金データは2000年代半ばまでしか入手できないため、それ以降のデータは元の「賃金構造基本統計調査」を利用する。

なお、一般労働者だけのデータは1970年以降で、それまでのデータにはパートタイム労働者も含まれている。

2.戦後の名目賃金の推移

以上のデータを用いて、まずは戦後の名目賃金の推移について見る。

ここでのデータは、各年の平均的な月給(現金給与総額)である。

現金給与総額は、具体的には毎月の定期給与(きまって支給する給与)と、賞与(ボーナス)などの特別給与を合計したものである。

「毎月勤労統計調査」の数字は、1年間の毎月の現金給与総額を平均したものである。

一方、「賃金構造基本統計調査」の数字では、定期給与についは毎年の6月の給与が調査されており、賞与などの特別給与は(その調査の年の前年の)1年分が調査されている。したがって、毎月の平均的な現金給与総額を算出するために、特別給与を12分の1した数字に定期給与を加えた数字を毎年のデータとして利用した。

戦後の長期的な名目賃金の推移を見ると、戦後から1990年代前半まではほとんど一貫して賃金が伸びてきたことがわかる。

その動きは「毎月勤労統計調査」、「賃金構造基本統計調査」の双方で基本的に一致している。

しかし、それぞれのデータの間の違いもある。

1つ目は、事業所規模の間の違いである。

「毎月勤労統計調査」では、1990年代から事業所規模5人以上のデータも掲載しているが、事業所規模30人以上の賃金と比較すると、常に事業所規模5人以上の賃金の方が4~5万円程度低くなっている。

したがって、平均的な賃金は小企業では低くなっている。

2つ目、「賃金構造基本統計調査」のデータよりも「毎月勤労統計調査」のデータの方が、90年代末以降の賃金の低下幅が大きくなっている。

既に述べたように、「毎月勤労統計調査」のデータにはパートタイマーも含まれるので、パートタイム労働者比率が上がることによる平均賃金の低下の影響があると考えられる。

パートタイム労働者を含まない「賃金構造基本統計調査」の一般労働者のデータでは、90年代以降の平均賃金の低下幅は「毎月勤労統計調査」のデータほどではない。ただし、一般労働者だけで見ても、90年代以降に平均賃金の低下傾向にあることは同じである。

一般労働者(フルタイム労働者)の近年の平均的な月給は約40.1万円である(賞与も含む)。

ただし、以上のデータはあくまでも名目賃金である。

この間に物価の変動もあるため、それを合わせて見ないことには、実質的な賃金の変化がわからない。賃金が2倍に上昇する間に物価も2倍になっていたら、実質的な賃金の上昇はなかったことになるからである。

3.戦後の実質賃金の推移

ここでは、戦後の実質賃金の推移を見る。

具体的には、2015年を100として基準化した実質賃金指数の推移を見る。

上記の名目賃金を、消費者物価指数を用いて実質化する。

実質賃金指数の算出は、「毎月勤労統計調査」を参考に以下のようにして行った(「毎月勤労統計調査全国調査で作成している指数等の解説」)。

実質賃金指数 = [名目賃金指数(2015年=100) ÷ 消費者物価指数(2015年=100)] × 100

  • 名目賃金は、各年の名目賃金を2015年を100として指数化したものである
  • 2015年基準(2015年=100とした)の消費者物価指数には、総務省統計局の「2015年基準消費者物価指数」の、全国年平均、「持家の帰属家賃を除く総合指数(1947年~最新年)」を用いた

まず、もっとも長期のデータである「毎月勤労統計調査」のデータから算出した実質賃金の推移を見ると、このようになる。

ただし、その理由は定かではないが、「毎月勤労統計調査」の時系列表にある実質賃金指数のデータとは一致していない。

基本的な動きは名目賃金と同様であり、実質賃金で見ても戦後から1990年代前半まではほぼ一貫して増加してきたことがわかる

特に1960年代から70年代初頭までの伸びが著しい。

1950年頃の段階では実質賃金指数は20程度となっており、近年と比較して実質賃金の水準は5分の1程度だったことになる、

その後1960年代から70年代初頭にかけての高度成長期に大きく賃金が伸びたことで、近年の賃金の水準まで大きく近づいた

一方、1990年代後半以降はむしろ低下傾向にある。

パートタイム労働者も含んだ「毎月勤労統計調査」のデータでは、90年代から実質賃金が低下した結果、近年の実質賃金の水準は1980年代の初頭頃の賃金と同様の水準になっている。

続いて、一般労働者(フルタイム労働者)のみを見た「賃金構造基本統計調査」のデータを使って、同様に実質賃金指数を見るとこのようになる。

基本的な動きは「毎月勤労統計調査」のデータと同様であるものの、90年代以降の動きには違いがある。

「毎月勤労統計調査」のデータでは90年代から実質賃金が低下する傾向にあったが、このデータではほとんど横ばいで推移している。

つまり、フルタイム労働者だけで見ると90年代から実質賃金は大きく変わっていない。ただし、2000年代末からは少し低下している。

4.実質賃金の近年の伸び率

近年における実質賃金の伸び率を見てみる。

1990年代以降の実質賃金の伸び率を見ると、1990年代末の不況、および2008年のいわゆるリーマン・ショックの後に実質賃金が大きく低下したのがわかる。

それ以外の時期でも1~2%程度の上昇、低下を繰り返している。

2012年末からの第二次安倍政権以降も、実質賃金は特に上昇していない

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