日本の借金と世界の借金:政府債務の国際比較

日本の政府債務の規模が大きいことはよく知られている。ここでは具体的な数字で各国の政府債務を比較する。

政府債務の規模を国際比較する場合、よく使われる数字は一般政府の債務残高の対GDP比である。一般政府は、国だけでなく地方自治体、社会保障基金も含めた政府部門全体を意味する。

それに加えて、債務を見る場合も、粗債務の規模を見る方法のほか、政府の持つ資産を債務から除いた「純」債務で見る方法もある。ここではOECDのEconomic Outlookにおける統計データベースにおける、一般政府金融粗債務(General government gross financial liabilities)と一般政府金融純債務(General government net financial liabilities)の対GDP比をそれぞれ見ることにする。

1.一般政府粗債務

政府の持つ資産を債務から差し引かない、粗(グロス)債務残高の対GDP比を主要な先進国について見ると以下のようになる。

日本の一般政府債務は1970年代に大きく上昇した後、90年代以降に再び大きく上昇した結果、2000年頃には国際的に見て最高水準の債務規模に達した。近年では日本の一般政府債務残高は1,000兆円を超え、対GDP比で見て二百数十パーセントとなっている。財政状況の悪いギリシャやイタリアも大きく上回る規模となっている。なお、データの取れるOECD加盟国の平均値は2016年で86%である。

2.一般政府純金融債務

政府には国債を主とする金融債務がある一方で、有価証券や貸付金、公的年金の積立金などの金融資産を持っている場合もある。OECDの統計では、負債からそのような金融資産を差し引いた「純」(ネット)債務の数字も入手できる。

純債務で見ても基本的な動きは粗債務のものと大きく変わりはない。ただし、近年における日本の債務の規模は、純債務で見た場合に粗債務よりも対GDP比で100ポイント程度減少する結果、ギリシャやイタリアと同程度かそれ以下の水準となっている。もっとも、日本の債務規模が国際的に見ても非常に大きいという結果は変わらない。データの取れるOECD加盟国の平均値は2016年で32%程度である。

ただし、少なくとも日本の数字については、2015・2016年あたりまでに公表されていた数字よりも、粗債務・純債務の双方において、対GDP比の規模が小さくなっている。それは、2008SNAの採用により、GDP計算方法に変更がなされた結果、GDPが以前よりも大きく算出されるようになったことの影響である。GDPが大きく算出されることに伴って対GDP比は以前よりも小さい数字となっている。もっとも、過去のGDP統計のすべてが2008SNAの方法で遡及して算定されているわけではないことに注意が必要である。本記事作成時点(2017年8月)では、2008SNAでの遡及が行われているのは1994年までである。GDP統計の作成方法に変更が行われると、それ以前との数字との間に連続性がないことにも注意が必要である。

(⇒「戦後日本のGDP統計」を参照)

3.粗債務と純債務のどちらで見るべきか?

粗債務で見る場合でも純債務で見る場合でも、基本的な傾向には違いがないものの、特に日本の数字を見る場合、どちらの指標で見るかによって印象は異なるかもしれない。つまり、純債務で見る場合、イタリアやギリシャと同程度かそれ以下の規模となるため、粗債務で見た場合のように世界的に一国だけ突出して大きい債務とは言えなくなる。上述のように、純債務の対GDP比は粗債務のそれよりも100%ポイント程度も減少する。どちらで見るかによって日本の債務規模の評価も異なってくるかもしれない。では、粗債務と純債務、どちらが政府債務を見る上でより妥当な指標と言えるのだろうか?

日本に関してみると、「純債務」を見る場合、どのような資産が粗債務から差し引かれているのか?下に転載した財務省の資料によれば、最も大きなものが社会保障基金の資産であり、大部分は公的年金の積立金であると考えられる。しかし、年金の積立金は将来の年金給付の財源に利用されるものであり、少なくとも国債の償還に利用できるものとは言えない。したがって、年金の積立金を粗債務から差し引いて良いかどうかは疑問が残る。

一方、中央政府の「出資金・貸付金」の多くは財政投融資によるものであるが、財政投融資の財源は財投債という国債によっている。したがって、財政投融資が増えると、政府の資産・負債の双方が同じ程度に増大すると予想される。また、「有価証券」のうちの大部分は為替介入に伴って取得した外貨証券であり、その獲得のための財源は外国為替資金証券という政府短期証券の発行によっている。つまり、外貨証券の資産が増大する分は、その見合いとして政府短期証券の負債が同程度で増加する。したがって、以上の「出資金・貸付金」や「有価証券」の外為証券の分については、資産と負債が見合っているものなので、粗債務から差し引くのが妥当かもしれない。

出所:財政制度分科会(平成27年4月6日開催)資料 「SNAベースの純債務残高について」(http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia270406.html

これらの中央政府の資産の中身ついては、財務省の『国の財務書類』が参考になる。

以上のように、結局のところ、政府の金融資産を債務から差し引くことが妥当であるかどうかは、その具体的な中身によって異なってくると考えられる。そのため、粗債務で見るべきか、純債務で見るべきか、という問題の判断は難しいものと思われる。

加えて、純債務で見る場合、「資産」の側をどの範囲とするかという問題も存在していることに注意が必要である。すなわち、ここで見たOECD統計の純債務は、あくまでも金融債務・資産がその範疇であり、政府の所有する土地などの固定資産は含まれていない。資産として固定資産も含めるとすれば、純債務の規模はさらに減少すると考えられる。もっとも、その場合にも「純債務」を見る場合に固定資産の価値を差し引くのが妥当かどうかという問題は存在する。

この点、OECDの2015年の『対日審査報告書』(OECD Economic Surveys: Japan 2015)では、「巨額の政府資産の存在は念頭に置いておく必要があるものの、公的部分の状況の集約的な尺度としてはグロスの政府債務がベストなものであると思われる」と結論付けている(OECD[2015] OECD Economic Surveys: Japan 2015, pp.110-111)。

データソース

・OECD.Statにおける、“Economic Outlook”の統計データ
http://stats.oecd.org/index.aspx?DatasetCode=EO

・右側に現われる表の“Variable”の中から、“General government gross financial liabilities, as a percentage of GDP”や“General government net financial liabilities, as a percentage of GDP”を選択

※長期のデータは、“Customise”の“Time & Frequency”から表示年を変更することで見ることができる

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