「貧困率」とは何か?(絶対的貧困・相対的貧困)

日本の貧困率は他国と比較して相対的に高いとされている。その際は各国で「貧困率」というものを測定するわけだが、それはどのようにして計測されているのか?

各国の「貧困率」は、その国の人口のうち、「貧困状態」にある人の割合を指す。したがって、結局、問題は何をもって「貧困状態」にある人を決めるのか、つまり「貧困」の定義が問題となる。

貧困の定義として、最も良い、間違いのない唯一の定義が存在するわけではない。つまり、ある程度は恣意的に「貧困」を定義することになる。

貧困の定義の仕方は大きく2つに分けられる。「絶対的貧困」と、「相対的貧困」である。

・絶対的貧困absolute poverty

「絶対的貧困」状態とは、基本的にどの国に住んでいるかに関係なく、人として最低限の生活を営むことができないような状態をいう。絶対的貧困の基準の例としては、世界銀行World Bankの定義がある。世銀は、2008年、購買力平価米ドルで1日あたり1.25ドルの所得を国際的な貧困ラインとして定義した。この基準は2015年には1日あたり1.90ドルに引き上げられている(http://www.worldbank.org/en/topic/poverty/brief/global-poverty-line-faq)。

ただし、このような定義は、主として発展途上国を対象の中心に据えたものであると言える。このような基準では、いわゆる先進国においては貧困ラインを下回る状態の人はほとんど存在しないことになると考えられるからである。

もっとも、アメリカでは独自に絶対的貧困ラインを設けているようである(OECD[2013] “The OECD approach to measure and monitor income poverty across countries”、Smeeding[2001] “United States Poverty in a Cross-National Context”)。

・相対的貧困relative poverty

一方、それぞれの国の中において、相対的に経済状況が悪い人、すなわちその国の中で相対的に「貧困」と呼べるような人に注目するのが「相対的貧困」である。貧困率の国際比較を行っているデータや、「日本の貧困率は○○%だ」といったニュースでは、通常この相対的貧困を見ていると言って良い。

ここでは相対的貧困の指標について詳しく説明する。

1.相対的貧困の指標

相対的貧困ラインの具体的な定義の方法も複数考えられるが、最もよく使われる定義の1つは、「(その国の)全人口の所得の中央値の半分」というものである。つまり、「全人口の所得の中央値の半分」未満の個人を「相対的貧困状態にある」とみなし、人口に占める相対的貧困状態にある人の割合が「相対的貧困率」となる。貧困率の国際比較を行うデータなどよく利用されているのは、この定義に基づいた貧困率である。

相対的貧困者のイメージを図で表すと次のようになる。

縦軸は個人の所得を表す。その国の人を、所得が低い方から順に左から一列に並べたとする。その真ん中の人の所得が、所得の中央値となる。国民の数が101人だとすると、51番目の人の所得が、中央値である。平均値ではなくて中央値であることに注意。

その中央値の半分未満の所得しかない人が、「相対的貧困状態」にある人となる。上の図ではピンクで塗りつぶした人が相対的貧困者となる。

その相対的貧困者の占める割合が「相対的貧困率」である。

2.等価所得

ただし、このように貧困率を測定しようとする場合、大きな問題が1つある。

それは、子どもや専業主婦のように自分自身の所得を持っていない人をどのように取り扱うべきか、という問題である。

もし、子どもなど、自分自身の所得はなく家族の所得によって支えられている人を、そのまますべて所得をゼロだとすると、例えばほとんどの子どもたちや専業主婦は相対的貧困者としてカウントされることになる。しかし、子どもの中には、両親の所得が数千万円あり、非常に裕福な暮らしをしている人もいるかもしれない。子ども自身の所得が無いからといって所得をゼロとすると、そのような裕福な暮らしをする子どもまで「貧困者」として数えてしまうことになる。

そのような問題を避ける1つの方法としては、世帯の所得を世帯員に等分に割り当てる、ということが考えられる。

夫婦+子ども2人の世帯を例として考えてみる。夫に800万円の所得があり、その他の家族には所得がなかったとする。そのまま個人の所得で考えると、妻と2人の子どもは所得がゼロで「貧困者」となってしまうが、そうならないように夫の800万円の所得を4人で割り、それぞれが200万円の所得を持つものとして計算する、ということである。

それは1つの方法ではあるものの、一方で別の問題を生み出す。それは、家族の「規模の経済」が考慮に入れられていない、ということである。

ここでの「規模の経済」の意味は、「家族の人数が多くなるほど、1人当たりにかかる生活費は減る」ということである。

先ほどの例でいうと、800万円の夫の所得を家族4人で等分して考える、ということは、家族4人を200万円の所得を持つ4人の別々の個人にバラして考えるということを意味する。しかし、800万円の世帯所得のある4人家族のそれぞれの生活水準は、年収200万円の個人と同じだと言えるのだろうか?

規模の経済を考慮すると、おそらくそうではないだろう、ということになる。つまり、「800万円の世帯所得のある4人家族のそれぞれの生活水準は、年収200万円の個人よりは高いだろう」と想定する、ということである。

このように規模の経済が存在するとすれば、「世帯所得を単純に家族の人数で割ってそれぞれに割り当てる」、という方法では、実際の生活水準よりも過少に所得を計算してしまうことになる。

したがって、貧困率を出す際には、世帯の所得を個人に割り当てるということを行うと同時に、このような規模の経済の効果も一定程度反映するような計算を行う。

規模の経済を考慮して世帯の所得を家族構成員に割り当てる際に使う尺度を「等価尺度」equivalent scaleと呼び、その等価尺度を使って計算された個人の所得を「等価所得」equivalised incomeと呼ぶ。

等価尺度も複数考えられるが、OECDのデータでよく利用される方法は、「家族の構成員の個人所得は、世帯所得を世帯人数の平方根で割って算出する」というものである。

⇒OECDによる等価尺度・等価所得の説明は、OECD “What are Equivalence Scales?”や、OECD Inequality Update 2016のBox 1を参照

つまり、世帯人数がN人、世帯所得をX円とすると、その世帯の中の1人当たりの所得Y(=等価所得)は次のように計算されることになる。

例えば、先の例の世帯所得が800万円、家族が夫婦+子2人の4人である場合、1人当たりの所得(等価所得)は、

このように計算される。つまり、この家族は、4人がそれぞれ400万円の所得を持った個人として分解して考えるということである。言い換えれば、「世帯所得800万円の家族の個人はそれぞれ、所得が400万円で1人暮らしをしている人と同等の生活水準である」とみなすということである。

以上のように、貧困率を測定する場合には、等価尺度を使ってどのような世帯も個人単位に分解して考える。したがって、世帯所得の大きい世帯にいる子どもや専業主婦は、それぞれの所得も大きい個人としてみなされるため、裕福な世帯の子どもなどが「相対的貧困者」としてカウントされることはなくなる。

このように個人単位に分解した上で、前掲の図にあるように、全員を所得の低い順から並べて中央値を出し、その半分未満の所得(等価所得)の人間を「相対的貧困者」とするのである。

なお、以上のような方法は、所得格差をジニ計数で計測する場合などにも使われる。

貧困率や所得格差の測定は、以上のようななかなか複雑な手続きを通して行われている。

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